尾白川・黄蓮谷右俣

憧れの黄蓮谷右俣に行ってきたので、その時の様子をレポします。

9/4(土) 4:30前夜入りしていた道の駅はくしゅうで起床。朝日に染まる甲斐駒を望むと、否が応にも胸が高まる。
5:30に竹宇駒ヶ岳神社に到着し、そこからタクシーで日向林道へ。この林道、以前は錦滝まで行けたそうだが、いまは崩壊が進み、日向山登山口のすぐ先で早々と車止めゲートが出現する。
幻想的なトンネルの続く林道を小一時間歩くと林道の終点に到着し、そこから沢装備を付けて沢筋へ下降。ここからいよいよ待ちに待った黄蓮谷の遡行が始まる。

噴水滝までは美しい釜を抱えた適度な小滝が続き、アクアステルス沢屋にとっては快適そのもの。しかしフェルト装備の沢ガールはフリクションの効きが悪い様で、悲痛の叫びを上げながら何度か淵に滑り落ちている。

アルプスの天然水に磨かれた花崗岩と、陽光の乱反射でコバルトブルーに染められた流れの織り成す渓相は、ただただ美しいの一言。登れない滝は巻き道がしっかりと着いており、一時間弱で全く噴き上がっていない噴水滝に到着。
ここから少し行くと本谷との二俣に到着し、左へと進むと程なく千丈滝が登場。この滝の右岸には五合目小屋跡地へと続く登山道が続いており、入渓やエスケープなどに利用できる。

坊主滝は滝の右側にあるガレルンゼを利用してコンパクトに高巻き。

この上部で滝を撮影中のカメラマンに遭遇し、話を聞いていると、どうやら軽装の単独遡行者が我々の前を先行しており、見るからにヤバそうな格好をしていたらしい。

その奥の二俣を右俣に進むと、ほどなく奥千丈滝の小滝・ナメ滝地帯に突入。ここの入り口で、先程の話で出てきた単独遡行者に追いつく。ノーヘル、ガチャゼロ、スニーカーという完全なるハイカー装備で、この先の連爆帯に身の危険を感じたらしく、引き返すとのこと。グラビアルートは難易度を把握できない登山者を呼び寄せることを実感した出来事であった。ルートさえ間違わなければ、それほど労せずに黒戸尾根に引き返せるはずなので、安全に下山して欲しいと願いながら先に進む。

奥千丈滝200mは水線を忠実に辿って、落ち口のナメ滝部分は右側に抜けるのが正解。ここで一人だけ滝の左から攻めようと登り始めたが、最後の逆くの字滝を超える部分が非常に悪く、結局懸垂下降で引き返して右側から登り返す羽目に。しかし、暑い日差しの中でのスリリングなシャワークライムは、ただただ楽しいの一言。
奥千丈滝から上は、フリーでなんとか登り切れる小滝が次々と現れ、どこまでも遡行者を飽きさせない。振り返ると韮崎の街並みと八ヶ岳が一望でき、最高に気持ちの良い遡行が続く。

烏帽子沢出合付近はインゼル状地形になっており、この周辺に幕場適地が幾つかある。その中でも、今回我々が決めた幕場は花崗岩に囲まれた素敵空間で、さらには岩の下に焚火の薪がセッティングされているという、致せり尽せりのビバークポイントであった。到着時間が早かったので、幕場で悠々自適な午後を過ごし、夕飯後は焚火クッキングに興じる。やがて幕場は夕闇に染まり、韮崎の夜景と秋の星空を見ながら、揺らめく炎に包まれて静かな眠りに付く。

9/5(日) 4:30に起床。下界を閉じ込めるかの様な重厚な雲海と、モルゲンロートに染まる山肌を見ながら、ジフィーズを掻き込む。岩陰ではすばしっこいオコジョが愛らしい顔を覗かせている。

ここから黄蓮谷右俣の本谷はひたすら急傾斜のルンゼとなり、右の枝沢や小尾根のブッシュを上手く使って高度を稼ぐ。最後は花崗岩の岩場歩きを楽しみ、ハイマツを掻き分けると黒戸尾根の登山道に合流。

二時間程度の行動であったが、それなりに高度感もあり、楽しい登攀であった。巻き道を的確に押さえれば特に難しい場所はないが、沢筋にハーケンを打っている箇所もあったので、そちらをガシガシ登ると、より充実感のある遡行となるに違いない。

稜線からは、毛羽立った雲海の上に鳳凰三山、富士山、白峰三山の展望が広がり、ザ・夏山縦走と言うべき絶景に酔いしれる。天気の良い週末ということで、甲斐駒山頂は多くの登山客で溢れかえっている。

黒戸尾根の下山はコースタイムで5時間だが、快調に飛ばして3時間半ほどで竹宇駒ヶ岳神社に到着。最後は汗だくの身体を清める為に、尾白川に飛び込んでクールダウン。甲斐駒の湛える渓谷の水はどこまでも清く、美しかった。